精神圧迫された時、人はどのように行動するか。
18歳女、Sの場合。
・はじめに
・Sについて
・どこを彷徨ったか
・彷徨った理由
・各所でのSの心理考察
・まとめ
・はじめに
先日、精神的圧迫を感じた18歳女は夜中に家を飛び出し、いろんな所を彷徨った後、夜の10時に帰宅するという、妙な行動をとった。
この飛び出した女を仮にSと呼び、彼女の行動について考えてみた。これは後のレポートである。
・Sについて
18歳女。無気力に悩まされている。結果論ばかりをみてしまい、虚無に偏りがちである。
鬱の海(沼とも言う)で泳ごうとしたが、バタフライ泳法を知らずに溺れてしまった事がある。
・どこを彷徨ったか
Sは家を出て、まず北の道に出た。
後に一度家に戻り、また家を出る。
喫茶店に行き、1時間ほど時間をつぶした後、家の南の道を通り、かかりつけの内科、園田内科へと向かう。
園田夫婦と食事、雑談などを楽しんだ後に帰宅している。
・彷徨った理由
その日Sは漫画を読む事ができており、妙な快感に酔いしれていた。
一通り漫画を読み終え、Sはふと思いつき、世界史の参考書を手に取っていた。いつもなら読む気すら起きぬ参考書だが、その日は珍しくスイスイ読む事ができていた。そのときSは思ったという。「あ、読めるじゃん。今日読めるじゃん。」と。
しかしそこにSにとって思わぬ邪魔が入り込む。
夕飯の準備と、皿洗いという仕事だった。楽しんで参考書を読みふけっていた彼女にとって、それは苛立ちを感じさせずにはいられなかった。
「何故私一人でんなことしなきゃあかんねん。」Sは疑問に思った。
漫画を1冊読めない自分が参考書を読めている。という現実が嬉しくてたまらなかった彼女は、食事も風呂もどうでも良く感じていた。だが、もう一方の現実では、家族としての仕事をせねばならない、というものが待ち受けていた。
板挟み状態になり、息苦しさを感じたSは、とりあえず台所に向かったと言っている。「皿を洗おうと思ったんです。やらなかったら怒られると思ったから…。」だが皿は思った以上に多く、一人では難しいと感じていた。
余計にやる気を削がれたSは、途方にくれる。しばらく経った時にSの妹が、家から一つの叫び声を聞いている。
“やりたい事”と“やりたくないがやらねばならぬ事”に挟まれたSは、タイトルにも記載した「精神圧迫」を感じ、そこから自身を逃避、精神的錯乱を回避する為に、家を飛び出したと思える。
・各所でのSの心理考察
(1)家、北の道。
友人Kへの着信履歴が残っている。その時Sは一方的に愚痴ったと思われる。聞き取れないぐらい早口で。
「あのね私は読みたかったのよ!河合塾とかなんとかいう参考書みたいなアレをねぇ!読みたかったのよ!だけど読めないのよ!」
錯乱状態を回避する為に自宅を飛び出そうとしているはずなのだが、既に錯乱状態に近いと思われる。
この時点で「家を飛び出したのは妥当な判断だったのか」という事に疑問が沸くが、Sは「妥当だ!」と思いこんでおきたい為に、あえてここでは触れない事にする。
「深呼吸しろ」や「まぁ落ち着け」など、Kがなだめているが、Sは「知るかー!」と怒って、そのままサンダルを履き、ジャケットを羽織り家を飛び出す。
この冬空の下、薄手の上着2枚と裸足にサンダルとなると、翌日の風邪が心配であるが、Sは強がって風邪も「ひいてない気がする」と言っている。咳も熱も出ていないので大丈夫だと思われる。
北の道に出てみたところ、Sの住んでいる地域は田舎な為、街灯などは存在しない。
真っ暗闇の中Sは周りを見渡すが、とくに建物らしき建物も見あたらず、闇、闇、闇。広がる闇。Sは俗に言う“霊体”のようなものが居る!と感じ、恐ろしくなって家へと戻る。
(2)再度家、喫茶店。
家に戻って皿を洗おうとするS。だがやはり圧迫感に襲われ、たまらず家族の元へ走った。
Sは何かを母親に訴えたのだが、軽く流されたらしい。周りをみてみると、母以外は皆遊んでいるように思えた。皆遊んでいるという状況に今度はストレスを感じ、やはりまた家を飛び出すS。このときもまた靴下をはいていない。学習能力は低いようだ。
家のすぐそばの喫茶店でチャチャコ(甘めのコーヒー)を頼んだ。甘いものをとりたいと感じた理由は、脳を休ませたいと感じ取ったからだと思われる。マスターはSに「おつかれさん」と笑顔を向けてくれたという。Sはその時、マスターの口ひげが最高にかっこよく見えたらしい。
Kにはメールで連絡をとっていたが、やはり「まぁ落ち着きなさい。」となだめているKに対し、Sは以下のようにメールを送りつけている。
「無理だ!悔しさではらわた煮えくり返ってるわ!スキヤキだ!水炊きだ!鍋だ鍋!!」
単に怒るだけでは面白みがない、申し訳ないという念が働いたのか、Sはここでも笑いに走っている。
そしてどうやら、そうやって怒っている事に対し、「スキヤキ〜鍋!!」の下りで、怒りを緩和して見せたいと思ったのがみてとれる。
因みにそのメールに対する返信は「うまそうだな。」であった。
喫茶店のマスターはSの訴えを聞き、「まぁツイてない時はそんなもんさ。」と微笑んだ。Sにとってその言葉は「ツイてない日ってこんなんだっけか?」と疑問を残す事になったが、あまり気にかけない事にしたらしい。
「帰ってあげたら?」というマスターの声が聞こえるが、上記メール文章の通り、機嫌が直りそうになかった為、Sはまたも放浪を決意する。
因みに喫茶店に居る間、妹から何度かの着信(これは全てSが拒否した。)及び「皿すすげよ。」といった内容の、いわば「一緒に皿を洗おう?」というメールが届いていたが、Sはそれをも無視し席をたつ。
このSの心を「意地になっている」と言うのだと私は認識している。
(3)闇夜の道を行き園田内科へ。
南の道を歩いてみたところ、北の道からするとだいぶマシだとSは思ったという。
「一本道なのでまっすぐまっすぐこのまままっすぐ進んでいけば、先生の家までつく。」
この時Sがなぜ園田内科を避難所に選んだかまったくわからないが、ふと園田夫婦の顔が浮かんだ為、と彼女は語っている。
Sは夜中の8時頃に家に向かい、着いてしばらく玄関でうろうろしていた。この点で「来たはいいが迷惑だろうな。」という遠慮が伺える。
結局Sは中に入らせてもらい、晩ご飯までごちそうになった。2度目の3人での食事に花が咲く。愚痴やら笑い話やらして、Sは大分ストレスを発散することができたらしい。このときに「結局帰る場所は家しかないのはわかってるんだけどねぇ」と呟いている所をみると、Sは家に帰る意志はあるようだ。
Sは時間が経てば経つ程帰りづらくなっていってるような気はしたが、なかなか帰る決心がつかず、こたつで雑談に花を咲かせていた。
Sの後ろに時計がかけてあったため、それをみてみると9時をまわり、40分すぎた所であった。
この辺りからSはちょくちょく時計を気にしはじめている。
10時になり、園田内科の奥さんに連れられ、Sは帰宅する事になる。この時Sの手にはおみやげとして鹿児島のパン屋で購入したらしい美味な食パンが握られていた。Sは(いきなり訪問して、夜ご飯をいただき、おみやげまで貰って悪いなぁ…。)と思ったという。それ以上にいきなり訪問して快く受け入れてくれた事に感謝していた。
(4)帰宅。
Sは何事もなかったかのようにして家に入り、「ただいまー」と言い、夕飯をごちそうになったことを父に伝えた。Sの父は「ほうか。」と笑っていた。その時Sの父はニュースをみていたのだが、特に大した関心を向けたようには思えなかった。しかし、Sの片手のパンには「それどうしたの?」と聞いてきている所をみると、やはり多少は娘のSの動向が気になったとみえる。
Sの母はうたた寝をしていて、Sが参考書をまた手にとりしばらくしたら目を覚ました。Sの母は特にSを怒るような事をしなかったが、ちらりとSをみて、またうたた寝を始めた。
Sはこの時、「明日が怖いな。」と思ったという。
1時間ほど参考書を読んだり、テレビ番組を見ていたりしている内にSの妹が帰ってきた。Sの妹はSを見て、静かな怒りを目で表していた。
Sは素知らぬ顔でテレビを見たり、参考書を読んだりしたが、内心ではかなり焦っていたのだという。
・まとめ
Sの行動を追ってみた所、「現実逃避」と取れる部分が多くを占めている事がわかる。
その点に対しSは「日頃逃げる事は少ないのだからいいじゃないか。」と思っているようだが、Sが“逃げる”、“逃げない”というのを意識するのは他人がそれを見た時に解る事であり、S自身のみでは判断に苦しむ。
また、このような逃亡劇に何の詮索もしない家族というものがSにとって、事後のストレスを緩和させる事になっている。だがそれは逆に、またそういう事をする可能性が残ることも考えられる。
Sが帰宅した時、皿は既に洗ってあった。
あなたは弱さから逃げることはできない。時には最後まで戦わなければならないし、死んでしまうこともある。戦うなら、何故今でないのか、あなたは何処にいるのか?
ロバート・ルイス・スティーヴンソン
とりあえず私は今、このレポートを仕上げる為にパソコンの前に座っている。
2003.11.26 S.Hamahiro
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